電力・都市ガス小売完全自由化の影響、業界の将来性

この記事について

2020年に電力の、2022年に都市ガスの託送部門が法的に分離され、業界の変革がますます加速しようとしています。この記事では、インフラ業界を志す新卒就活生に向けて、短期的・長期的視点から小売完全自由化の影響についてご説明します。

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目次

電力・都市ガス業界の変化

電力業界および都市ガス業界は、ともに近年自由化が推し進められてきた業界です。
2016年には電力業界、2017年には都市ガス業界において「全面」小売自由化が実現しました。

これらの業界を志望している学生は、「新規プレイヤーの参入により自分の志望する企業が脅かされないか心配」と思われる方も多いことでしょう。
就活生がインフラ企業を選ぶ理由の1つに「安定感」が挙げられるように、これらの業界は規制産業ゆえに競争を免除されてきた側面が有ります。
その既得権益が今後脅かされるのかどうか、順を追ってご説明します。

短期的に紐解く

まずは短期(~10年と仮定しましょう)的に見て、全面自由化が与える影響を考察します。

自由化の系譜を追う

電力業界・都市ガス業界はそれぞれ大規模事業者から小規模消費者へと段階的に自由化の領域が拡大されてきました
その沿革としては次のようになります。

電力

  • 2000年3月:「特別高圧」区分において小売自由化。大規模工場、デパート、オフィスビルが対象
  • 2004年4月:「高圧」区分に拡大。中小規模のビルや工場が対象
  • 2016年4月:「低圧」区分においても自由化。家庭・商店が対象

都市ガス

  • 1995年:200万m^3以上が自由化:大規模工場が対象
  • 1999年:100万m^3以上が自由化:大規模商業施設が対象
  • 2004年:50万m^3以上が自由化:中規模工場が対象
  • 2007年:10万m^3以上が自由化:小規模工場が対象
  • 2017年:0m^3以上が自由化:家庭が対象

今回の自由化領域拡大により「全面」自由化という言葉通り、規制分野が消滅し完全に自由競争に晒されることとなりました。

各企業の売上割合

電力

上図は電力業界における大手3社の売上を「特別高圧」「高圧」「低圧」ごとに分類した図になります。
いずれの企業においても、各セグメントの割合はほぼ均衡しており、今回自由化された「低圧」区分が占める割合は3割前後に留まっていることがわかります。

都市ガス

上図は都市ガス業界における大手3社の売上を「工場・産業用」「家庭用」に分類した図になります。
やはり電力業界と同じく、工場・産業用の割合が占める割合が多い傾向が分かりますね。

2017年に自由化された分野は「家庭用」区分に該当し、いずれの企業においても売上の3割ほどしかないことが分かります。

(東京ガスは卸供給・発電専用分野を、東邦ガスは卸供給分野を除外した合計から割合計算)

これらから分かること

以上のように、各企業の売上に占める「低圧」区分(電力)または「家庭用」区分(都市ガス)の割合は少数にとどまります。
先に見たように、各企業の売上の大半を占める大口顧客向け区分は電力・都市ガスともに10年以上前から自由化されており、その影響は既に出尽くしたと言えるでしょう。

したがって、短期的に見た場合にこの度の低圧/家庭用部門における自由化が単体で及ぼす影響は必ずしも大きくないと本サイトでは結論づけます。

長期的に紐解く

ここまでで、短期的には問題になるとは限らないとご説明しました。
それでは長期的(10年以上未来の話と仮定します)に見た場合はどうでしょうか。

発送電・導管分離

2020年に電力会社の発送電、2022年にガス会社の導管の法的分離が実施されます。
電力ならば電線、ガスならば導管といった、各消費者にエネルギーを供給するための部門を別の法人に移管し、独立性を高めることが目的です。

すでに会計分離は実施されており各電力・都市ガス会社は他事業者と同様、部門別採算制の如く自社内で託送料金を支払う必要がありましたが、それに加えて法的分離により人事等が独立し、一層の公平性が担保されるようになります。
すなわち、これまで既得権益に与っていた既存企業は相対的に苦境に立たされることを意味します。

他国の状況等

画像引用元:E.ON

これまで、日本の電力・ガス規制緩和は欧州の流れを後追いする形で進んできました
たとえばドイツにおいては1998年電力市場が完全自由化されたため、約20年遅れで後ろを追いかけている形になります。

ドイツの電力業界は全面自由化により再編が加速し、E.ON、RWE、EnBW、Vattenfallの4社に事業が集約される形となりました。
一方で、自治体主体で地域密着型サービスを提供するシュタットベルケの数は今や1400社に登り、総売上だけ見れば大手4社の755億ユーロを凌ぎ1150億ユーロを稼ぎ出しています。

なお、このようにドイツにおいては全面自由化後に業界の勢力地図が一変したにも関わらず、本来の目的であった電力料金の引き下げは実現されていません(むしろ2倍近く上がっている)。

日本においても基本的にドイツの流れを踏襲しており、自治体による新電力設立の流れが加速しています。
代表的なところで言えば浜松新電力、奥出雲電力、松坂新電力など。
業界再編についても、現状ではドイツの事例のような企業合併には至っていませんが、大阪ガスと中部電力の例(cf.CDエナジーダイレクト)などを見るに、従来に増して関係が緊密になっていくことが予想されます。
企業合併は公正取引委員会の目もあるので難しそうですが、「あり得ない」とは言い切れないものがありますね。

以上のように、日本の電力・ガス市場はドイツなど欧州各国の流れをこれからも後追いすることが予測されます。
これまで法律によって既得権益が保障されていた業界ですが、長期的にはその常識が通用しなくなると言えるでしょう。

もちろん公益事業なので、電力・ガスに取って代わる革新的なエネルギーが普及しない限り事業自体が「無くなる」ことに関しては有りませんが、それと企業体が従来の形で存続するか否かは別問題ですからね…
「安定」に目が眩んでインフラ業界を志されている方は、是非一度立ち止まって、自分なりに将来予測を立てた上で目指されることをオススメします。

企業再編について

2020年現在は未だ電力・都市ガスともに小売完全自由化が始まったばかりであり、その影響も出尽くしていません。
企業再編についても一部で可能性を示唆されることはあるものの、あまり現実味を帯びた話ではありません。

しかし、日本のエネルギー業界の歴史を紐解くと、もとは5大電力と呼ばれる企業群が牛耳っていました。
先に見たドイツの例を鑑みるに、日本のエネルギー業界がふたたびいくつかの総合エネルギー企業に再編していくことも可能性の一つとしてはあり得るかと思います。

5大電力について

戦前の日本の電力・ガス業界は次の5社が実質的に支配していました。

  • 東京電燈
  • 東邦電力
  • 大同電力
  • 宇治川電気
  • 日本電力

国家総動員法に基づく配電統制令によって地域ごとに配電会社が整備され、それらが現在の電力会社の直接の前身となっています。
つまり、電力会社が地域ごとに存在する現在の体制は、当時の政府による要請によるものであり、自然発生的なものでは無いということですね。
必ずしも現在の形態を取り続ける必要が無いというところで、再編の可能性を少し説得付けるような気がしないでもありません。

再編例(根拠なし)

もし、現在の電力・都市ガス会社が再編するとしたらどうなるか…というのを妄想してみました。
確たる根拠は全く無いですし、電力会社ごとの周波数の違い、都市ガス会社ごとの発熱量の違いといったものも考慮していません。

東京電力+中部電力+大阪ガス

東京電力と中部電力は共同でJERAを設立し、中部電力と大阪ガスは共同でCDエナジーダイレクトを設立しました。
また、東京電力(の事業会社であるフュエル&パワー社)・大阪ガス・JXTGエネルギーの3社が合同で、首都圏で都市ガスを製造する会社を設立していることからも、三鼎の状態が出来ています。

したがって、大手の中でも特にこの3社がくっ付く可能性が高いのではないのかなぁと。

東京ガス+関西電力+東邦ガス

東京ガスと関西電力は、首都圏における電力事業や不動産ビジネスにおいて協業体制を強めています。
浜松町にある芝パークビルなんかが代表例ですね。
エネルギー事業でも、2016年段階でLNG調達および火力発電所運営に関してアライアンスを組んでいます。

もし企業再編が進むのであれば、ここに関西電力および東京ガスと仲の良い東邦ガスを加えて、これらが主要グループとなる1大企業が誕生すると見ています。
東邦ガスは関西電力から電力調達を行い中部エリアで電力販売を行っている他、東京ガスと東邦ガスが手を組んで中部エリアで電力販売に進出するビジョンもあります。

敵の敵は味方、とはよく言ったものですが、GDPの大半を占める東名阪エリアの主要6社が企業再編すれば、他エリアの企業も巻き込まれざるを得ないでしょう。
たとえば、三大ガス会社に卸供給を受けている都市ガス会社などはその筆頭ではないでしょうか。
こうして、戦前のような勢力図になっていくのではないか、と妄想してみました(笑)

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