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目次
企業情報
概要
電力業界を志望するならば必ず知っておかなければならない会社、それが「電源開発株式会社」(通称:J-POWER)です。
この記事では、電源開発が営む卸電気事業とは何か?というところから、電源開発の事業が持つ社会的意義や事業の今後の展望、そして就活生が抑えておくべきESや面接といった選考への対策情報を網羅してお届けします。
基本情報
社名 | 電源開発株式会社 |
創業 | 1952年9月16日 |
資本金 | 1805億2百万円 |
売上高(連結) | 9137億75百万円 |
純利益(連結) | 422億77百万円 |
従業員数(連結) | 2449名 |
企業研究
国内に2社しかない卸電力事業者の1つ
電源開発株式会社は「卸電力事業者」に分類され、その名の通り、国内において東京電力や中部電力のような電気事業者に対し電力を卸売するのが主な仕事です。
この「卸電力事業者」は、同社とあと一社「日本原子力発電(通称:げんでん)」の2社しか存在しません。
同社はもともと「電源開発促進法」という法律に基づいて設立された、いわゆる国策会社であることが何よりの特徴です(ただし現在では完全に民営化されており、財務大臣および電力会社がかつて保有していた株式もすべて売却されています)。
設立に特殊な背景がありますから、まずはそれを説明してから、現在の事業内容について詳しく解説します。
設立のいきさつ
戦前、日本における電力供給は主に「大同電力、東邦電力、東京電燈、宇治川電気、日本電力」の5社が担っていました。
しかし第二次世界大戦の開戦に伴い制定された国家総動員法などの影響により、これらの会社は日本発送電として国の管理下に置かれることとなりました。
終戦後、国内の電力供給を担っていた日本発送電が、GHQの要請により制定された集排法により今の十大電力に分割されましたが、分割されたばかりの各電力会社には発電設備を管理維持するだけの財務基盤が整っておらず、これを国の力で解決すべく設立されたのが電源開発でした。
今では地方電力各社の財務基盤が安定したため電源開発はその影に隠れるような形になってしまっていますが、電源開発は終戦後間もない頃、まだ力のなかった電力会社に代わって発電所の管理維持や新たな発電所の建設を担っていた、いわば地方電力会社の兄貴分のような存在だった、と言うことができます。
現在の事業
ここまで、戦後から現在に至るまで、電源開発が国内の電力安定供給に貢献してきた、ということをかいつまんで説明しました。
ただし勘違いしてはならないのは、電源開発は国内の電力供給を行うだけの会社ではないということです。
ここからは、電源開発が現在行っている事業についてご説明します。
概況
電源開発の2020年3月期決算から、セグメント別の営業利益について円グラフに表したのが上図です。
ご覧いただいて分かるように、「電気事業」とその関連事業を合わせて半分ほどに過ぎず、残りの半分を海外事業が占めていることが分かります。
このように、電源開発は本業である国内発電事業から海外での発電所建設に事業をシフトしつつある、ということを念頭に置いて、それぞれの事業について簡単ながら解説していきます。
電気事業・電力周辺関連事業
国内における電力発電・販売や、それに付随するエンジニアリング事業などが主にこれらのセクターに含まれます。
保有する発電設備の構成は、後ほどグラフでもご覧いただきますが、水力37%・石炭火力37%、その他24%といった構成になっています。
水力と石炭火力に偏重した構成となっていますが、現在電源開発においては原子力発電所の建造計画を有しているため、こちらが供用開始すれば第三、第四の柱となりうるかもしれません。
青森県に建設予定の大間原子力発電所に関しては、詳細は公式ホームページを御覧ください。
このセグメントについて特記すべき事項は「石炭火力発電への過依存、ESGへの課題」といったところでしょうか。これについては長くなるため、後述します。
その他にも、各電力会社のエリア間を接続する基幹送電線ネットワークを有しており、導線ネットワークの総延長は2400kmにも及びます。
また、東日本と西日本では電力の周波数が異なることは周知の事実かと思いますが、エリア間で異なる周波数を受け渡しできるようにするための周波数変換所(佐久間周波数変換所)をも保有しています。
これらのように、地方電力会社の橋渡しのような役割も持っていることは抑えておくべきでしょう。
海外事業
海外における発電事業は、すでに述べたとおり電源開発の利益のうち4割を占めています。
事業内容は「コンサルティング」および「発電事業(エンジニアリング)」の2つであり、前者では発電施設や送電網の建設・運用に関する設計などのサービス提供を、後者では実際に開発に携わっています。
海外コンサルティング事業は、古くは1960年から続く事業であり、ベトナムなど東南アジア圏を中心に64ヶ国に及ぶ実績を有しています。
発電事業に関しても、タイなど東南アジア圏を中心に、様々な種類の発電事業を有しており、総出力2085万kW(持分:668万kW)を有しています。
なお、例えば関西電力は1996年から海外展開を開始するなど、他の電気事業者は電源開発に比べ遅れを取っています。
先見の明とまでは言いませんが、他の電力事業者よりもアドバンテージを有している点も、電源開発の優れた点と言えそうです。
石炭火力発電への過依存、ESGへの課題
2020年7月、経済産業大臣が「2030年までに石炭火力発電からの脱却をより加速させる」旨の方針を表明しました(参考)。
これにより電源開発の株価は急落したのですが、それもそのはず、電源開発の発電構成の実に37%を石炭火力発電が占めるからです(下図参照)。
石炭火力発電は、発電の原料となる石炭が非常に低コストであるため、現在でも国内外問わず採用されている発電手法の1つです。
しかしながら、石炭火力発電により排出される温室効果ガスの量はLNG火力やクリーンエネルギーなど他の発電方法に比べて多いため、ESG(*)重視が企業に求められる昨今、この発電方法からの脱却が求められています。
このように一見すると電源開発がピンチに陥っているようにも見受けられますが、同社は佐久間ダムをはじめ水力発電事業に対する強みを持ち、またESGに対する目が比較的厳しくない新興国市場における電力開発事業を行っています。
それに加え、「石炭火力発電におけるゼロエミッションの推進」を企業課題としており、IGCCやCCUSなどの研究開発活動にも取り組んでいます。
(*)ESG:環境、社会、ガバナンスの頭文字をとった言葉。SDGsなどを受け、環境などへの倫理的な配慮が今日の企業には求められる傾向にあります。
**2021年3月追記** : BLUE MISSION 2050
https://www.jpower.co.jp/news_release/2021/02/news210226_4.html
電源開発は2021年、「BLUE MISSION 2050」という脱炭素に向けた長期経営プランを発表しています。
プランでは、2020年から2050年の30年間をかけてCO2の排出量を実質ゼロに削減していくことを目標としており、電源開発の喫緊の課題であった石炭火力偏重からの脱却に関する具体的な計画が記載されています。
CCUSに代表される二酸化炭素貯留技術や、昨今話題の水素を用いたサプライチェーンの確立等、JPOWERがこれから目指す姿がよく分かる資料となっているので、電源開発への就職を目指す学生は必ず読んでおきましょう。
業績推移
いくら魅力的な事業を行っている企業であっても、赤字を垂れ流していたり、先細りすることが予測されてはどうしようもありません。
そのため、会社の将来性を見極める上で、会社の業績は必ずチェックしなければばなりません。
今回は電源開発に関して、主要な業績指標である「売上高」「営業利益」「営業利益率」そして「自己資本比率」の4点に関して、過去6年分のデータをもとに分析します。
売上高/営業利益率
まずは電源開発の売上高と営業利益率について見てみましょう。
売上高に関しては着実に上昇傾向にあり、過去5年間で20%ほど成長していることが伺えます。
営業利益率も電力会社にしては非常に高い数値を誇っており、例年9%から12%の範囲で推移しています。
2020年の決算について、類似企業と単年比較してみましょう。たとえば中部電力では4.3%、関西電力では6.5%と、5%前後で落ち着いている企業が多いため、電源開発はおよそ倍の利益率を有することが分かります。
主たる理由としては、電源開発が卸電力事業者であるがゆえに販管費が比較的低廉に抑えられていること、発電コストの低い石炭火力発電による発電量が多いことが挙げられるでしょう。
前者は長所である一方、後者は短所とも取ることができますが、すでに述べたように電源開発は昨今、低炭素化の推進も企業課題として挙げています。低コストな発電を維持したまま低炭素化が実現できるか否かが1つの分かれ目ともなりそうです。
営業利益
電源開発の営業利益を、国内電力事業(電気事業+電力周辺関連事業)と海外事業、その他の3つに分類したものが上図になります。
全体を俯瞰してみると、営業利益額は2018年が突出して多いものの、全体としては緩やかな上昇傾向にあることが読み取れます。
2015年には600億円ほどであった総営業利益が、2020年には800億円まで増加していますから、この傾向は事実として存在すると考えられるでしょう。
しかしながら、今回特に注目したいのは国内事業と海外事業の比率です。2015年に27%に過ぎなかった電力事業の割合が、2020年には42%まで増加しています。
上図グラフより昔のデータと比較すると当該傾向はより顕著であり、たとえば2011年度の総営業利益は419億円であったのに比し海外事業は65億と全体の15%に過ぎない結果となっています。
このように、電源開発は全体の営業利益増加もさることながら、国外比率を着実に高めつつあることが明確に読み取れます。
国内の電力需要は既に頭打ちですから、新興国等、今後の電力需要が大きく見込めるエリアで勢力を拡大することは同社にとっても非常に好ましいことであると考えられます。
(単年)自己資本比率
企業の財務健全性を示す指標の一つとして、「自己資本比率」がしばしば用いられます。
自己資本比率とは、総資本に占める返済不要な資本の割合を表した数値であり、これが高ければ高いほど借入金に依存しない企業経営ができており、財務が健全であると考えられます。
さて、電源開発の自己資本比率については、25.9%から29.7%の間で推移しており、ほぼ横ばいとなっています。
この数値については他の企業と比べなければ意味がありませんので、主要な電力会社と比較してみましょう。
電力会社のなかで最も自己資本比率が高い企業は沖縄電力(37.8%)であり、最も低い企業は北海道電力の11%という結果になりました。
電源開発の28.8%は、沖縄電力・中部電力に次いで業界3位という結果となり、財務健全性は同業界のなかでは中上位に入ることが確認できます。
なお、一般に自己資本比率は40%あればOKとも言われますが、電力会社の場合、発電所や送電網の建設・保守・管理に莫大な費用が掛かりますから、必ずしも40%が合格ラインと言うことはできないと考えることが相当でしょう。
将来性
他のインフラ企業全般にも言えることではありますが、こと電源開発においては将来消滅するリスクは限りなくゼロに近いと言えるでしょう。
事業の特性上、潰れるどころか赤字になることすら考えがたいですが、電力を供給しており「無くなっては困る」という特性上、仮になんらかの危機に陥っても国による救済が有るのでは無いでしょうか。
目下のリスクとしては石炭火力発電所が政治的に廃止の危機にあることでしょうが、電源開発が保有する石炭火力発電所はいずれも供用開始年が非常に古いものが多く、例えば高砂火力発電所などは1968年の運転開始から既に50年を数えています。すなわち減価償却も完了しているものが多いと考えられ、企業に対するダメージは相対的に少ないものと推察されます。
とにかくインフラ企業としての安定性を備えながらも、積極的な海外におけるコンサルティングおよびエンジニアリングへの進出を実行しているチャレンジ精神も伺え、実際にそれが成功しているのですから素晴らしいの一言に尽きます。
電源開発はエネルギー商社のような側面が強く、インフラ業界志望、エンジニアリング業界志望、エネルギー業界志望のいずれの学生にとっても魅力的な就職先であると言えそうです。
選考対策
さて、ここまで見た情報をもとに、電源開発の選考ステップに役立つ情報をいくつかご紹介します。
志望動機・面接対策
志望動機は中期経営計画から逆算して立てると、「その会社が目指すポイント」と「そこに到達するために活かせるあなた自身の強み」をマッチさせることが容易であり、オススメです。
方法論についての詳細は以下の記事に記載してありますので、読むことをオススメします。
基本経営方針
経営戦略の先にある企業としての目標は、
「人々の求めるエネルギーを不断に提供し、日本と世界の持続可能な発展に貢献する」
です。この文面からも、
- エネルギーの安定供給(社会インフラとしての使命)
- 日本と世界の持続可能な発展(グローバル展開、SDGsへの貢献/ESGの達成)
を読み取ることができます。
有価証券報告書には、これを実現するための更に具体的な目標が6つ記載されており、
- 再生可能エネルギーの更なる拡大
- 化石電源のゼロエミッション化への取り組み
- 安全を大前提とした大間原子力計画の推進
- 海外発電事業での新たな展開
- 分散型エネルギーサービスへの取り組み
- 収益基盤の強化・財務起立及び人材戦略
となっています(第68期有価証券報告書時点)。
⑥はともかく、①から⑤までは入社してから携わってみたい仕事としてESや面接で活用できそうですね。
各事項の詳細は有価証券報告書に記載されていますので、電源開発志望者は一度目を通しておくことをお勧めします。
・関連:有価証券報告書
企業研究をより深める
当サイトの企業研究記事は、主に企業が発行する決算短信や有価証券報告書、業界専門紙、信用調査会社のレポートなど信用できる情報源を基に分析・公開しています。
しかし、決算短信や有価証券報告書などに記載されている内容をすべてまとめているわけではありません。
ご自身でこれらの資料を読む力をつけておくことで、より深い企業研究が実現するかと思います。
決算資料の読み方は下記記事にてまとめていますから、ぜひこちらを参考にご自身なりの企業研究方法を確立してみてくださいね!
インターンシップ
電源開発では複数日程のインターンシップを開催しています。
複数日程インターンシップはいずれの会社においても選考に寄与する度合いが高い、ということは最早公然の秘密ですが、インフラ企業においては一層この傾向が顕著です。
プレゼンテーションやグループディスカッションなどで、周りの就活生に圧倒的に差をつけられるテクニックを当サイトでは複数ご紹介しています。
これらの作業を苦手とする就活生は数多いですが、逆に言えば相対的に高評価を得る千載一遇の好機ともなりえます。
ぜひ一度目を通してみてください。
こちらの企業もおすすめです
最後に、電源開発に似た属性を持つ企業をいくつかご紹介します。
インフラ企業
東京電力
インフラ企業の代表格といえば、やはり東京電力でしょう。
東日本大震災以後、社会的非難を集めた企業ではありますが、それゆえに就活生人気も必要以上に低くなっており、ある意味穴場とも言えるでしょう。
大阪ガス
大阪ガスといえば、インフラ企業らしからぬチャレンジャー精神に富んでいるとして評価が高く、地盤である関西圏を飛び出したエネルギー事業にとどまらず、素材事業、SIer事業など、インフラの枠を飛び越えた事業展開を見せています。
関連記事大阪ガスの選考対策・企業研究情報読む元国策・国営企業
本日紹介した電源開発は元国策企業ですが、他にもすでに民営化した国策企業は数多くあります。
その中でもおすすめな企業を3つご紹介します。
国際石油開発帝石
国際石油開発帝石も電源開発と同じく、元国営の血が流れているエネルギー企業です。
こちらは石油やLNGなどの資源開発が主ですが、国外比率が高い点は電源開発とも似通っています。
国際石油開発帝石は国内に都市ガスパイプラインを持っており、ガス版電源開発との見方もできるでしょう。
石油資源開発
石油資源開発もまた、国際石油開発帝石や電源開発と同じく、国策企業の1つとして発足した会社です。
こちらは国際石油開発帝石とは異なり国内権益の比率が高くなっています。
中日本高速道路
エネルギー関係の企業ではありませんが、高速道路インフラを担う「中日本高速道路」(NEXCO中日本)もオススメです。
電源開発と異なり民営化してから日も浅いため、本業(高速道路の保守運用)以外に進出できていないきらいもありますが、高速道路が持つインフラとしての重要性は電力と並んで高く、強い社会的意義を感じながら働くことができそうです。